会社をハッピーにする障がい者雇用

 定期開催をしていますヒューマンキャピタル勉強会を、さる9月8日(水)に開催しました。講師に、障がい者専門の人材紹介会社 ジョイコンサルティング㈱の代表取締役社長木村志義氏をお招きして、ご講演いただきました。
 「障がい者雇用」がまだ日本の企業に根付いていない状況下、木村社長は2002年にいち早く障がい者の就労支援事業を興されました。講演では、業界のパイオニアとしての苦労話や、日本の現状をお話いただきました。当日の要約を報告させていただきます。

ジョイコンサルティング株式会社 代表取締役社長 木村 志義氏

■ 講 演

【はじめに~起業について~】

 皆さん、はじめまして。あいにく今日は台風が接近している状況ですが、どうぞ宜しくお願いします。まず自己紹介を兼ねまして、障がい者の採用支援で起業した経緯をお話したいと思います。実は、最初から「障がい者採用で起業する」とは決めていませんでした。冒頭で紹介していただいたように、早稲田大学で体育会系のラグビーに打ち込みました。早明戦で大いに盛りあがった時期です。卒業後は、大手タイヤメーカーに入社。生活事体は安定していました。ただ「いい会社」でも、同じ会社に出勤する繰り返しの毎日に、段々と疑問がわいてきました。満たされてはいましたが、いつしか、ふと「何の為に生まれてきたの?」って、心の声がするのです。外資系への転職も経験して、起業することを決意しました。しかし、当然初めての起業です。決めてからスタートするまで半年以上かかりました。どうしても踏ん切りがつかなかったのです。尻込みする自分。サラリーマンを否定しているのではなく、要は「適材適所」ですね。独立を決意した瞬間に、「人材紹介会社をやろう」と、自然に出てきたのも「適材適所」が、私自身の「志」や「価値観」として重要
な位置を占めているからだと思います。

【起業~障がい者採用について~】

 「障がい者専門」に決めたのも、「適材適所」の妙と思える分野だったからです。初めは営業に廻っても、「障がい者採用」がまだ世間で認知されておらず、全く相手にされない毎日でした。「何で上手くいかないのか?」の苦悩の繰り返しでしたが、ある時、もっと障がい者の人達に入り込む事で何か掴めるのではないかと、一緒に酒を飲みました。ここで驚いたんです!全盲の人達の飲み会に参加させて頂いたのですが、彼らはめちゃくちゃ呑んで、大騒ぎして酔っぱらい、外でも寝ちゃうんです。ラグビー経験者の私が呆れるほどなんです。その時に、間違った認識をしていたと気がつきました。「障がい者はおとなしいものだ」「家でじっとしていた方が安全だ」という先入観ですよね。その先入観を変えた時、紹介者の就職決定の朗報が入り出したのです。仕事を支えてくれた人達も沢山いましたが、99%の人は私のやろうとしている事に反対でした。起業に反対、経験のない人材紹介業を選ぶことにも反対。なにより「障がい者専門でいく」と言った時には、驚きを通り越して呆れられて、「無理だ」「苦労するよ」の意見ばかり。そんな世の中の「決め付け」に対しては、今も越えなければいけないと思っています。最近では、軽い身体障がいの持ち主の方への就労は一般化されてはきましたが、障がいが重い方、知的障がい者、精神障がい者、HIVキャリア等々、そんな人々に対しては、就労の道が閉ざされているのが現状です。更に嫌なのは、日本の社会に根強い差別・偏見・決め付けが残っていることです。私の使命は、障がいを抱えていても「特別な人達と思わない」そういう状況が社会に根付くように変えていければ良いな、と思っています。

【障がい者採用~障がい者とは~】

法律では、一口に「障がい者」を定義したものはなく「身体障害」「知的障害」「精神障害」について、それぞれ「身体障害者福祉法」「知的障害者福祉法」「精神保健福祉法」により規定しています。障がい者の雇用に関しては、障害者雇用促進法で「身体障害、知的障害又は精神障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう」と規定しています。障がいの種類を問わず「職業生活上の困難を抱えている、すべての種類の障害者」がこの法律の対象となる、ということです。障がいには一般的に、身体障害者(視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害)、知的障害、精神障害、その他の障害、等があります。

【障がい者採用~状況~】

 障害者雇用促進法によって、民間企業・国・地方公共団体は、一定の割合(法定雇用率)に相当する人数以上の身体障がい者または知的障がい者を、常用労働者として雇用することが義務づけられています。精神障がい者については、平成18年4月1日より、雇用率の算定対象となっています。法定雇用率は5年ごとに算定し、見直すことになっています。現在、民間企業については、法定雇用率は1.8%と定められています。常用労働者56名以上で1名の雇用が義務づけられる計算です。民間企業=1.8%(対象労働者数56人以上の規模)、特殊法人・独立行政法人=2.1%(対象労働者数48人以上の規模)、国・地方公共団体=2.1%(除外職員を除く職員数48人以上の機関)、都道府県等の教育委員会=2.0%(除外職員を除く職員数50人以上の機関)です。つまり常用労働者1000人の企業は、1000人×1.8%=18人以上の障がい者を雇用する必要があるわけです。雇用率未達成の企業に対して、雇用計画の提出や未達成分に相当する納付金徴収が行われます。また、正当な理由なく計画を達成せず、実施勧告に応じない場合、「社名の公開」による社会的制裁を取っています。現実はどうかと言えば、「納付金徴収」つまりお金を払って解決しているような企業が多いのが現状です。ジョイコンサルティングとしては、「障がい者雇用」がごく普通になる世の中になるよう活動してまいる所存です。ご静聴ありがとうございました。

■ 質問会

Q木村社長が会社を設立された当初のご苦労とは?

【回答】私自身が障がい者を特別視していた事で、遠回りしたなと思いますね。就職希望の障がい者には障がい者団体を足で歩かないと会えないとか、インターネットは使ってないだろうとかですね。普通の就職支援会社がやる事と同じでよかったわけです。

Q内部障がい以外の人を雇う場合の注意点について?

【回答】内部障がい(心臓にペースメーカーを入れている方等)ですと周囲の人は気にしない場合が多いですけど、聴覚障がいであれば、電話が出来ない、普段のコミュニケーションの仕方でも唇を読めるか、読める場合でもゆっくり話すとか、筆談か、手話が必要かどうか等々。一言では難しいですが、それぞれの方に合わせていく事が注意点ですかね。

Qハローワークで障がい者採用はできるのか?ハローワークとの付き合い方は?

【回答】ハローワークから沢山雇用している企業もあります。費用が掛からないですし、販売系企業で知的障がいや発達障がいの方など軽作業系の仕事であれば使えると思います。お役所ですから担当者が熱心かどうか、民間より労力は懸けないといけないでしょう。IT系企業で作業系の仕事が無い場合や、担当の質では我々の様な民間の方が強いはずです。

Q経営陣に障がい者雇用の必要性を説くには?

【回答】大企業だと企業名公表などリスクを嫌いますね。納付金徴収が株主代表訴訟になったケースもありました。障がい者採用の為の特例子会社を作るような動きにもなりましたから、その辺り「リスクの強調」の話をするのが良いかと思います。

Q障がい者の方の職場環境について?

【回答】障がい者の方の能力を考えると意外に販売、製造などは向いています。ITなども最近は増えています。
本日は、有難うございました。

インサイト No.25
2010年12月15日

経営戦略に関連する記事