人事担当者のための「面接講座」〜「行動規範」を押さえる〜
株式会社ヒューマンキャピタル研究所 主任研究員 北山 進
■ 連載 人事担当者のための「面接講座」
第9回. 「行動規範」を押さえる ―価値観(感)ということ―
前回(第8回)で「似て非なるもの」というサブタイトルで、面接の妥当性を追求してみた。いうなれば現象面では似ているが、それを打ち出している、質としての「メカニズム」の違いが重要だという主旨である。
一例として「スポーツマンと暴走族の行動力」、「リーダーとボスとの力量の質」などをあげてみた。似て非なるものをインサイトするということは、一言でいえばその人たちの「行動規範」を明らかにすることが核心となる。
今、「価値観の時代」とよく言われている。その一因は、若者たちのもっている考え方や、行動的価値観や、「感情的な好悪感」がベースとなっていることがあげられるであろう。
自分が何かやってみて、気持がいいという感覚的なもので動くということを指しているのであろう。これを価値観と呼べるかどうか?
ある学校で大学生に「価値観」と「価値感」を並べて板書して、どちらが正しいか聞いてみたら、半数以上が、「価値感」の方に手をあげたということだ。「観」と「感」では大きな違いがあるはずだ。
「感」は自己中心的な好みであり、「観」の方は、社会的関係と自己パターンとの折合いという広い立場に立って「観る」ということである。今、「価値感」の時代といわれる所以である。
ここでは「行動規範」と呼んでいるが、心理学では「基本的シェーマ」と呼ぶことが多い。微妙な違いはあるが、一人一人の行動を作り出すプリンシプルであることに変わりはない。これを把握することが、面接のオメガとなるであろう。
そのための面接のためのアプローチを、次の図によって示してみた。アメリカの心理学者エリクソンの「アイデンティティ」という概念を一部参照してみた。
行動パターンは、その人の「全体像」を示す。その動きを作り、支えているものが「行動規範」である。又、価値観としての中には、ある「使命感」のようなものを持っている人たちもいるが、ここでは深入りしない。
特殊なケースであり別の機会にゆずることにしたい。
さてここで具体的にケース群を示す前に、行動規範への問い方について、留意しておきたい点を若干のべておきたい。
最初から「あなたが行動の基準としていることは?」と問うことは避けたい。面接者の価値観をストレートに問うわけで、相手の「自己防衛」を誘うようなものだ。
又、相手もその問いに即、応ずることもむずかしい。こうした「自己認知」については、このシリーズの7回で、「自己認識力」というテーマで述べたことがある。
その中で、採用時の自己評価テストで、質問肢の半数超が「分からない」と回答している例を指摘しておいた。自己認識力の低下といってもよいであろう。
いずれのペーパー・テストも標準化されており、回答そのものに特にむずかしい問いはないはずだ。
こうなると、面接における発問が重要になってくる。面接者にも分かるように、「日常的レベル」の行動にまで具体化して、質問することが必要になってくる。
問いが、むずかしいということもあるが、何を問うているのかを「絞って」、焦点をハッキリさせることだ。
さてケースを次表に示す。今回は紙面の関係で一例のみに止めた。
(A)ではQ3が重要だ。これにQ1を重ねてみると行動パターンがおおよそみえてくる。Q5は別の意味で重要だ。かなり不変的な特質であるからだ。このケースでは「粘り強さ」を確認できるであろう。全体をまとめる切札はQ 2 だ。アンサーは「徹底分析」であろう。
(B)ではQ1が重要だ。(A)にも関連するがQ4ではっきりさせたい。Q5は難しい質問だが、本ケースでは避けては通れない点である。しかし、全体の応答を総合しての推定は可能と思われる。
以上の面接から得られる行動規範を、次のようにまとめてみることができるであろう。
(1)上司から指示された事は忠実にやり遂げること。指示内容から外れないことが、遂行力と共に第二の規範としている。又、その出来映えを立派にする事を、第三の規範としている点にも注目したい。
(2)対人関係は気にせず、やるべき事をやる事で、他からも理解が得られるはずだと考えている。「分からず屋」は相手にせずといったところがみえる。
(3)失敗は小さいことでも許されない。起こった時は徹底分析あるのみとしている。
以上の3点がこの人たちの「行動規範」となる。まとめてみると、「上司忠実」「徹底集中」「定型的課題の完成」となる。
このような価値観(感)はもちろん不動のものではないが、面接のオメガであり入社後のアルファとなることには間違いないであろう。
インサイト No.10
2006年6月26日