人事担当者のための「面接講座」〜「自己認識力」を質問する〜
株式会社ヒューマンキャピタル研究所 主任研究員 北山 進
■ 連載 人事担当者のための「面接講座」
第7回. 「自己認識力」を質問する ―対人関係の本質―
前回「対人関係」について質問のポイントをいくつか示した。今回はそれを受けて、「自己認識力」について書いてみる。
自分の行動パターンをどの程度認識しているかということだ。外から見える現象的行動の内面的な面を、客観的に自覚している程度である。このテーマは「対人関係」という感情を含む複雑な問題の核心となるものだ。
対人関係は入社後の、企業適応を左右する。同時に「仕事力」にも大きな影響を与えるものだ。又、何よりも「客観的自己認識」は、人間としての成熟度のコアともなるものである。
さて具体的にいくつかの例を3ケース上げてみよう。一つは自信力が自惚れになっている人たちをよくみかける。その逆に自分の持っている力に気づいていない人たちも少なくない。又、自分を表に出さず、ただ周囲に従属していくという自立性の低下が目立つ人たちも多くみかける。
採用時にいくつかの「自己評価テスト」を実施する企業も多い。これも自己認識力をみる手がかりになるものだ。しかし質問数の半数近くを「分からない」と回答している例も少なくない。標準テストであるから、自己評価項目の応答の難易度は十分チェックされているはずだ。
しかも30才代で、分からないというのが半分では、自己認識力を問う以前の問題である。いずれにしても、こうした事前情報から学んでおくことは、特に「自己認識力」という能力を問う上で不可欠のことである。自己評価項目の中でどの項目を「分かりません」としたのかを探ることも重要な分析である。
ここで注意しておきたいことは、自己認識力とは応募者の長所、短所という面を、ただ知るということにあるのではないということだ。このような点だけなら、応募者もあらかじめ吟味して望んでおり、自己申告の形で告知している場合も少なくないはずだ。
面接で知りたいことは、その内面的メカニズムをどの程度「自己認識」しているかということである。
例えば「協調性」に優れているとしても、その内容が、同調性の強いものであるかも知れない。あるいは仲間内だけの限られたものである場合もあろう。一方的な形で広く付き合うことを協調といっている場合もあり得るものだ。
これらの内的メカニズムをどの程度自己理解できているかを知ることが面接の力だ。又、先にふれた「自己評価テスト」の多くは、統計的偏差値で結果が示されている事が多い。その内容は面接によらなければ把握できないことを自覚してほしい。いずれにしても、多くの事前資料を練り上げておくことが必要となる。
さて次表にそのための、質問のモデルをいくつか提示しておきたい。先に示した3つのケースの中から、「従属的で自主性の低い」例を取りあげてみた。特に自己認識力の低さが目立つケースである。
発問の言葉は、前にもふれたことだが、相手に分かるように工夫してみることが大切だ。相手の言葉で聞いてみることに努力してみたい。
さて、問い(A)は、ごく一般的な入り方となるものだ。しかしこの質問によって得られる答えの内容によっては、そこから発展的に面接が展開されていく場合も十分考えられる。よい手がかりとなる答えが得られれば、更にクリエイティブな質問がそこから生れてくる。
次の問い(2)は特に答え方の印象を観察することが大切である。次の(4)と(6)の問いは「対」になっている、対人交流の行動パターンである。
このようなパターンが「自己認識力」を低下させることにつながるであろう。問い(5)はいうまでもなく自信の喪失感である。自ずからその原因も明らかになってくるであろう。
こうした自信の低下が自己認識力の低下に結びつくことは明らかだ。
前に発問の言葉を相手に分かるようにと述べたが、発問の手順も最初の問い(A)で述べたように自由に発展させることに心掛けたい。
面接の時間、面接メンバーの構成、事前情報の内容などによって、これらの質問モデルの展開も異なってくるからである。しかし、モデルとして示した発問の核心は押さえておくことを忘れてはならない。
「自己認識力」の判定は、行動パターンのメカニズムの把握が目標となるからだ。質問はいつもそれを意識してなされるべきである。
インサイト No.8
2005年10月1日