「40歳からの転職術」日経BP社刊著者が語る「いま時の”転職”感」
1960年東京生まれ。一橋大学法学部卒業後、日商岩井株式会社(総合商社)、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社(外資系証券/現在日興シティグループ証券会社)、株式会社ブリヂストン(メーカー)を経て、1997年より東京エグゼクティブ・サーチ株式会社で人材(スカウト)ビジネスの世界に入る。2003年6月に常務取締役を退任し、2003年10月に佐藤人材・サーチ株式会社を設立。
著書も多く、ダイヤモンド社より「転職でキャリアをつくる!」、プレジデント社「転職診断」、中経出版より「キャリアアップのプロが教える転職の完全成功術」等。
最新刊は今年4月に日経BP社より「40歳からの転職術」を出版。趣味は、ランニング(マラソン)とスキューバダイビング。
佐藤人材・サーチ株式会社 代表取締役 佐藤 文男
「40歳からの転職術」日経BP社刊著者が語る「いま時の”転職”感」
今の20代から30代前半にかけての世代は新卒の際に、バブル経済が終わったあとの就職氷河期にあたっているため、就職というものが甘くないことを知っていますし、ましてや第一志望の会社に入社できた人はごく一部にすぎません。したがって彼らには、現在勤めている会社に固執せず、キャリアを伸ばすためなら会社を変わってもよいという意識が根底にあります。
ところが、バブル経済期以前に就職した方たち、つまり30代後半より上の方たちは、新卒で入った会社にできれば定年(60歳頃)まで勤め上げたいと考えています。特にバブル経済の時期に新卒での就職活動をした学生は、今では想像もつきませんが有名企業の内定を3つも4つももらっていて、どの会社を選択するかといった贅沢な悩みを抱いていたのが一般的でした。
約20年前、私の出身大学同期の友人たちがどんな就職をしたかを振り返ってみましょう。実は当時優秀とされた学生はほとんどが金融機関に就職していったわけです。
特に日本長期信用銀行(現在、新生銀行)、日本興業銀行(現在、みずほ銀行)、それに東京銀行(現在、東京三菱銀行)等に人気がありました。すなわち大学のゼミナールで優秀な人からそういう銀行へ就職していったわけなのです。もちろん、こうした主要銀行以外にも都銀や大手証券に人気が集中していましたが、金融機関に続いて人気があったのが確か総合商社やメーカーであったかと思います。ところが、大学卒業からちょうど20年が経った今年、振り返ってみますと、日本長期信用銀行や日本興業銀行などが今のように変容してしまい、また山一証券が廃業してしまうことなど、当時の就職段階ではバブル経済に向かって進んでいた時代背景もあり、とても想像できる話ではありませんでした。
昨今、世の中が大きく変わってきて、企業もリストラや早期退職制度を打ち出すことによっていわゆる定年を前倒しして退職を促す措置を打ち出してきています。
あるいは、ニッサン(日産自動車)に代表されるような会社が外資の傘下に入ったりして、新卒時に就職した会社とは異なる会社になってしまうといった現象もあります。そうすると、定年まで勤め上げたいという思いはありながらも、果たして自分は定年まで今の会社で働けるのだろうかという不安を誰しも抱えるようになってきているわけです。新聞などのアンケート調査でも、中高年の6~7割は将来に不安を感じているという結果になっています。これは偽らざる現実の姿だと思います。ましてや大企業の中堅社員でさえ誰もが、定年まで残っていられるだろうかという不安を抱きながら仕事をしているのです。
しかしながら今後は、若い世代だけでなく中高年世代にも転職が至極当たり前になってくるかと思われます。現実は一歩進んでいて、なんとリクルートワークス研究所の調べでは40代でも2人に1人の首都圏のビジネスパーソンが転職を経験しているという結果が出ているのです。(別表参照)
確かに40歳以上のビジネスパーソンからすれば、世の中は本当に様変わりしたとつくづく感じられていることと思います。大切なことは、最初の転職は慎重かつ計画的に進めてほしいとは思いますが、最初の転職だけで全てうまくいかせようと自分に無理をしないことが大切です。短期間で職を変わるジョブホッパーでは困りますが、複数回の転職を経て自分が理想とする会社に出会えることもあるわけですから、転職は逆に1回までと最初から決して決めつけないほうがよいかと思います。要は複数回の転職を経ても最終的に自分が落ち着く会社に巡りあえれば転職の成功と言えるのではないかと思う次第です。
もちろん、「一生一社」の生き方が悪いわけではありません。転職が当たり前の時代になったとしても、これからもビジネスパーソンの3割から4割の人たちは従来通りに「一生一社」を守るかと思います。それはそれで日本の基本的な文化でもあり大切なことだと思っています。
しかしながら、他の会社でも働くことによって自らの価値を高めていく生き方の意義を考えてみましょう。一社の大企業で50歳後半を迎えた人と、複数の企業を経験してきて50歳後半を迎えた人とでは、どちらが仕事を続けていく面で強いかを考えてみてください。後者の方が、たとえ60歳を超えても他社の世界を知っているという点で、現役を続けられる実力をより多く身につけていると言えるのではないでしょうか。なぜなら転職は、転職そのもののみならず転職後にもハードルがあるわけですから。50歳後半になって初めてそういうハードルを跳ばねばならないとなったら、相当肉体的にも精神的にもしんどいことではないかと思います。21世紀の長寿社会では、すなわち「生涯現役」が幸せの形といってもよいでしょう。すなわち「生涯現役」を目指すのであれば50代までの転職の経験はそのための重要な布石になると言えるのではないかと思います。
インサイト No.5
2004年10月5日