人事担当者のための「面接講座」〜採用人材の再評価をやる〜
株式会社ヒューマンキャピタル研究所 主任研究員 北山 進
■ 連載 人事担当者のための「面接講座」
第3回 採用人材の再評価をやる ―面接と採用基準のズレ―
必要人材像を理念として戦略を立て、それを面接基準として戦術化することが、面接力強化の前提となることについては、すでにふれてきた。
その効果を上げるためには、面接基準に沿った「面接のあり方」が問われることになることはいうまでもない。しかし実情は必ずしもそうなっていないようだ。
たとえば面接の際使用される「記録カード」ひとつをみても、特性別に5段階にチェックされる様式が、そのまま使用されている。面接基準は必要人材像の「質」がその内容となっていることはいうまでもない。
しかし特性別の5段階チェックは「量」的な考え方が基本にある。もちろん面接官の「所見欄」はあるが、わずかなメモが走り書きされている程度のものが多い。しかし量的な手法も必要なこともある。たとえば採用人材のデータの継続的蓄積によって、その優劣バランスを評価する場合などの時である。この点については「HCi-AS」の結論構成比によって後にふれてみたい。
いずれにしても人材のクォリティの把握が面接の核心として機能していないと、採用基準とのズレは大きくなる。この点をハッキリさせるためには、基準と、採用人材像(行動パターン)との一致度を点検してみることが必要だ。
このことは「採用活動」全体を含めての評価になるわけで、次回の採用マネジメントの改善にも結びつくはずである。
ここで某社の評価例を参考として紹介しておきたい。この企業から「本年度の採用人材の戦力内容として、その行動パターンを、総括的に評価してほしい」という依頼があった。このような依頼は今のところは少ないのが実情だ。しかし毎年継続的に実施している企業もすでに10社を越えている。
さて再評価リポートの内容は次の4項目を中心として構成されている。
(1)採用基準との一致度
(2)戦力人材としてのパワーバランス
(3)育成目標(適性配置を含めて)
(4)個人別に留意すべきこと
企業としては、以上の4項目を土台として、次回の採用活動の改善に生かすことが、中心的な目標となることはいうまでもない。特に(1)の採用基準が、どの程度クリアされているかの「面接力」そのものの評価が、キー・ポイントになる。
ここで、その結果だけを次表にとりあげてみたい。
1 採用基準との比較
この表の核心は(A)と(B)の接近度である。結果はこの表にみる通り、一致度ゼロに近いものであった。
特に理念として示された採用基準の「創造的人材」とは、その行動パターンがかけ離れている人材像が目立つ結果となっていることは注目される。
また、この表には示されていないが、新入社員「38名」の行動パターンが、よく言われる「金太郎飴」のように並んでいることも分かったのである。
つまり同じようなタイプの人材の採用を、複数の面接官が基準として持っていたということである。どうしてこうような結果になったのであろうか。採用責任者(面接官でもある)にその所見を伺ってみたところ、次のような答えが返ってきた。
「実のところ、昨年よりトップから創造的人材を採用するようにと指示されていたが、どうしても今までの習慣が強く働いて、社風に合った行動パターンの持主を、という方向になってしまった」ということだった。これでは設定された基準と面接のズレを接近させることは到底期待できない。
人材の採用は人材戦略の第一歩である。その戦略に逆行することは許されない。この点は採用活動の結果を評価する場合の中核ともなる。また採用基準がせっかく設計されても、面接のあり方そのものが、今までの習慣から一歩も出ていなくては、両者のズレはかえって大きくなる。この事例はそれを示している。
いずれにしても、採用人材の再評価を実施して、その結果を次の面接に生かすという作業は、ビジネス・サイクルの常道でもある。またその資料を面接官にフィードバックすることが面接力強化にもっとも効果的である。それにしても「面接官研修」ということをあまり聞かないのも不思議の一つだが―。
さて、採用人材の再評価のチャンスの第一は「新入社員研修」にあることはいうまでもない。確かに入社後の当面の知識、心構えなども大切だが、この再評価という作業を何らかの形でプログラムしておきたい。この作業はできるだけ早期に手を打つことだ。次回の採用に即、生かすことが必要だからである。このチャンスを逃すと、なかなか面接手法を改善することができず、時には面接のマンネリ化につながりかねない。
企業によっては4,5年後に実施しているところもあるが、あまり実効は出ていないようだ。面接力強化の根は深いが、先の企業事例のように、早い機会に再評価の手を打つことが、その解決にとって非常に大切なことである。面接技術を磨くことも、もちろん大切なテーマではあるが、先ずわが社の採用基準と、採用人材の行動パターンとのズレを再評価することが必要だ。その資料が面接力を強化する最大の教材となるであろう。
インサイト No.3
2004年4月21日